コトノ葉カナタ【SILKP.O.D.】【非18禁内容】【考察ゲー】
前回、些か下世話な記事になってしまいましたが…
第11回目となる今回は「SILKP.O.D.」による同人ゲーム「コトノ葉カナタ」について書きたいと思います。
ちなみに非18禁です。
※基本ネタバレはありません
15.コトノ葉カナタ
C91の確か1日目に頒布されていたのが今作「コトノ葉カナタ」ですが、前述の通り、同人ゲームですのでボリューム小さめです。
ですが、絵やシステムなどはクオリティ高めでして、ストレスなく読み進めることができます。
あらすじは以下の通りです。
「――ボクね、探しモノがあるんだ」
大きな失敗を経験することなく人生を歩んできた主人公「広樹」。高校時代から数学が大の得意で、それは彼のアイデンティティーともいえるものだった。そんな彼だが、大学で学ぶ高度で難解な数学についていけず挫折。以来無気力になり、退廃的な生活を送っていた。授業にもロクに出席せず、かといって他のことに打ち込むわけでもない。彼の日常は、だらだらと時間をつぶしていくだけの日々へと成り下がっていた。
そんな陰鬱な毎日に嫌気がさし、ふとした思い付きから夏休みに一人旅をすることに。その旅先で、「那希」という不思議な少女と出逢い、ひょんなことから旅をともにすることになる。
旅の途中、那希は「今見えている世界は実在するのか」という問いかけをする。そして広樹が自分なりの答えを出した直後、世界が裂けてしまう。
裂けた世界のその先で彼が見るものとは…?
~コトノ葉が紡ぐ世界で思考を捨てられない少年と世界を捨てた少女の物語~
(公式サイトより引用)
ライターの七水さんのTwitterなどを拝見させてもらった限り、ライターさんはあのケロQの名作「素晴らしき日々~不連続存在~」に影響を受けているそうです。
それは、プレイし始めてすぐにわかります。
一、世界は成立していることがらの総体である。
一.一、世界は事実の総体であり、ものの総体ではない。
一.二、世界は諸事実によって、そしてそれが事実のすべてであることによって、規定されている。
これはウィトゲンシュタインの著書『論理哲学論考』の一節です。
これがプレイし始めるとすぐに出てきます。
もうここで、あぁこの人すばひび好きなんだなぁと思いますよね。
ADVゲームでウィトゲンシュタインの『論考』を取り上げてるものなんてすばひびくらいしかないですもんね。
ジャンル的には個人的に「考察ゲー」に入れたいと思います。
前回他の記事でも書いたと思いますが、ここでもう一度「考察ゲー」に対する僕の考えを書きたいと思います。
「考察ゲー」には思うに2種類あります。
1つは、「テーマ」は明確だが、「物語」に考察の余地が残る作品です。
「テーマ」、すなわち作者がゲームを通して伝えたいことはわかりやすく明確だが、「物語」、すなわちシナリオ自体が難解で、何回もプレイし直したりする必要がある作品です。
具体例としては以前記事にもした「デイグラシアの羅針盤」などが当たります。
もう1つは、「物語」は明確ないしはそれほど重視されていないが、「テーマ」に重きが置かれている作品です。
具体例としては「素晴らしき日々~不連続存在~」や「サクラノ詩―櫻の森の上を舞う―」などが当たります。
この2作、特にサクラノ詩はシナリオ自体は正直言って標準です。
ですが、「テーマ」が非常に深く、そこを読み解くことに重きが置かれている作品です。
このようにシナリオを理解することよりも、込められた「テーマ」を読み解くことに重きが置かれている作品がもう1つの「考察ゲー」だと思います。
そして、この「コトノ葉カナタ」は後者の「考察ゲー」に入ると思います。
正直言ってシナリオ自体はやはり同人作品ですので、まだまだ粗が目立つといいますか、もう少し深掘りしてほしかったと思うところもあります(特に後半以降)。
ですが、ライターさんが書きたかったこと、すなわち「テーマ」は中々面白かったです。
ここから先は僕が直観的に感じ取った感想になるのですが、
すばひびやサクラノ詩で描かれるウィトゲンシュタインの幸福論(そこには言葉と美しさと祈りの3つがかかわっていましたが)に、その瞬間瞬間の出来事だという「一瞬であることの価値」を評価に加えるという姿勢、すなわち「時間」の観点を加えた?幸福論とも取れました。
今作ではアランの『幸福論』が取り上げられていました。
アランといえば、「あらゆる不条理に対しても、心に余裕をもって接することで得られる精神的な平穏」を幸福と捉えた?人物ですが、この作品では彼の「幸福観」を採用したかったということでしょうか(今作でそうした表現が直接的にあったわけではありませんが)。
今見えている世界って本当に存在するの?という問いに対しては、「それが本物かどうかはわからなくとも今見えているこの世界を美しいもの、その瞬間のものとして肯定する」という姿勢は、当然すばひびにも見られましたが、この作品でも同様でした。
あまり話しすぎるとネタバレになりそうで控えますが、シナリオよりも、そのシナリオを通して得られる「テーマ」を読み解くことがこの作品の面白さではないでしょうか。
上記の考察はあくまで僕個人が感じ取った感想ですので、プレイした人が10人いれば10通りの解釈の仕方があっていいと思います。
たとえそれがシナリオライターの本意と異なる解釈となっても、どう捉えるかはプレイヤーの自由なのですから。
すばひびが好きな人なら案外「テーマ」がすんなりと理解できそうですが、初見の人には結構取っつきにくい作品でしょうか。
そこらへんが課題だと思います。
まぁ絵やシステムも普通にクオリティ高いので、どなたでも楽しめるとは思いますよ!
次の夏コミにも短編を出すということなので、内心少し期待したりもしています…
YouTubeに公式のPVというか紹介動画があります。
公式サイトには他にも、ストーリーの紹介などありますのでよかったらどうぞ。
目次の下の画像をクリックしていただければ公式サイトに飛べるようにしてあります。
総括すると、「コトノ葉カナタ」は…
・短編の同人ゲーム
・絵とシステムは共にストレスない出来
・すばひび好きによるすばひび好きのためのシナリオ(あくまで個人的評価に基づく)
といった感じです。
それでは、また逢う日まで…
(追記)
次回は「アイカギ」について書きたいと思います。